蟻虫とカラットゾンビ

懐かしの所有物で振り返る断捨離前の悪あがき

異色短編傑作選 イアラ

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表紙のイラストは恐らく「Smile」

 

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「烈願鬼」が格好良すぎる最終巻

 

初 版 1980.4.20
著 者 楳図かずお
巻 数 全5巻
発行所 株式会社 小学館
定 価 400円
評 価 ★★★★★

 

あらすじ

過去から現在、そして未来へと旅する謎の男性。彼が求める、小菜女(さなめ)が断末魔に残した「イアラ」の意味とは?そして地球の運命は…?

 

書評

天才楳図かずお氏の超絶傑作短編集。表題となっている「イアラ」をはじめ、恐ろしい程までの珠玉の短編作品が揃っています。また、その内容は勿論の事、各作品のタイトルも秀逸で「指」「目」「洞」「衣」「耳」「傷」「宿」「砂」など比較的短いものが多く、却って印象に残ります。今回ご紹介するにあたって改めて本作品を読み返してみたのですが、やはり凄すぎました。何十年経っても色褪せていませんでした。どの作品も本当に素晴らしいのですが、例えば第4巻に収められている「ドアのむこう」。この作品を初めて読んだ時は衝撃を受けました。話の中で、普段の夫の行動を疑う妻の美紀が、夫の後を付けます。するとあろう事か夫は、ケーキを手土産に見たこともない家へと向かい始めます。逆上する妻の美紀。しかしながらその時美紀は、既に「踏み越えてはならないなにかを踏み越えて」いたのでした。日常空間に突如入り込んで来た現実にはあり得ない「時空のねじれ」とでも言うのでしょうか。そういったあり得ない世界にも拘わらず、決して絵空事ではない現実的な世界観を抜群の描写力で描ききり、そんな世界観にでさえ読者をごく自然に招き入れる手腕。見事としか言いようがありません。後にも先にも、今後このレベルの短編集は最早生まれて来ないかもしれません。この作品を抜きにして、楳図作品を語る事は出来ません。